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南国の赤い花

2012/02/14 01:00

 

 

 

 「出席は取りません、レポートで評価します・・・」

 次の瞬間、どっと学生が出口に殺到する、その背中に、

 「レポートだけは、出すのよー」

 

 せめて、この時間だけでも受講すればと思うのだが、彼らには彼らなりの事情があったのだろうか、私は、親衛隊のひとりと目配せをする、親衛隊とは秋山さんの熱烈なファン。

 

 あっという間に、学生は数人になる、残った2~30人は東京中から集まって来たユングの研究者・愛好家、8~9割は女性だが、問題を抱えた男性もいた、たった数人の学生の中に、あの沖縄からの女子学生がいたわけだが、彼女は、あまり秋山さんに近づかなかった、本能的になにかを察知していたのかもしれない、もし、この女性が秋山さんとぶつかりあっていたら、どうだったか、秋山心理学の中に沖縄のシャーマニズムが加味されたか、どうだろう、なんとも言えない。

 

 それでも、3度4度、質問しているのを見た、秋山さん、この子の本質を見抜いていたのか、南からやって来た女性は、やはり、なにかを感じていたからこそ、講義を受けたのだろう、秋山さんが紹介した高価な本を予約しているのを見た、

 「それ、買うの」

 「はい」

 「ずいぶん高いね」

 「ふふふ」

 南国の春風のようにほほ笑む、その奥深いしとやかさや優雅さは、どこから来るものか、私は、ひとつのことを求めるのに性急で、なにか大切なものを見逃してしまったのかもしれない。

 

 おろかな求道者は網走に行き、大利根をさ迷う、

  ♪ かけてやりたや

    かけてやりたや 優言葉(やさことば)

    いーまのおれには

    いーまのおれには ままならぬ

 

 ふん、かっこつけて、

    止めてくれるな ドーゲンどの

    おちぶれはてても まこと君はオトコ オトコだぞー、

    抜いたススキを奥歯で噛~んで、

    行かねばならぬ

    行かねばならぬ

    行かねばならぬのじゃあー

 

 いきがって、どこへ行くっていうんだい、バカだ、ほんもののバカだ、下町の老師に、なんの不満があるわけではないが、現代の仏教界はどうなっているんだろう。

 

 この国の利権構造は、タテ型社会の隅々にまで浸透しており、大寺の息子は死ぬまで大きな顔をしており、ただ恐いのは糖尿病、お盆とお彼岸が終わるとほっかむりをした坊主頭が一般の庶民が足を踏み入れることのできない一流料亭に出入りする、西口の天理ビルの上階に高級シャブシャブの店がある、当時、ちょっとしたコースで3万円ぐらいだった、若い住職のグループと顔を遭わせてしまった、7~8名、何も知らない檀家のお布施だろう。

 

 昨日だったか、戒名代に、なんと500万円要求した住職のnews が駆け巡っていた、さすがに多くの僧侶が非難していた、そう、最近、座禅の会で料金を請求する寺が増えている、来るところまで来た、

  木喰(もくじき)を とうといひとと たずねくる

             たずぬるひとは なおもとうとき

 

 私を尊い人と訪ねてくれる人々は・人々のこころは、このわたしなんかよりも、はるかに上です、一生を造仏作善の修行で貫き通した僧は、「悟中に迷あり」の宗教心理を知悉していた、それに対して、必死になって手を合わせ、救いを求め・こころの平安を求める無名の貧しい人々は「迷中に悟あり」、このわたくしよりもはるかに崇高です、宗教者が謙虚なこころを忘れてしまったら、ただの詐欺師・詐話師にしか過ぎない。

 

 江戸時代の布教造像僧・木喰遊行上人は、私が少年時代を過ごした奥深い山里の、ひとつ谷を隔てた部落の出身、だから、私は、その気持ちが痛いほど分かる、一瞬一瞬、山色を変える山容を見ていると少年の時の熱い思いがこみ上げてくる、つらく厳しく貧しい生活・中学生になっても小3か小4の身体、それでも五体満足ならいい、背骨の曲がってしまった少女がいた、あの深い哀しい瞳が忘れられない、そして、善良で勤勉な山の人々、この国の正史に一行の記載もなく消えて行った人々、でっぷりと肥えた僧侶を見るにつけ、この国の社会の巧妙な支配構造に怒りが湧いてくる・・・

 

 事情通の秋山さん、ヨーロッパのオトコどもを手玉に取った天下の秋山さと子、なにもかも知っていた、

 「いいお坊さんなんていないのよ」

 「そう見せているだけ、だらしない情けないどうしようもない無能なオトコたちよ」

 「万に一人いたとしても、まわりにくっついているのはクズみたいな連中よ、ぶら下がって食っているのね」

 

 あの破天荒な講義は秋山さんなりの菩薩行だった、だからこそ、こころある人々が集まってきた、そして、あの女子学生は沖縄の誇り、琉球王朝の紅い花、背筋を伸ばし真っ直ぐ前を見つめる、その凛とした姿、

 「ああ、琉球の女性は立派だなあ」

 そう、秋山さんは気がついていた、さと子さんはうれしかった、本当に真剣に聞いている、二人はお互いを理解していたんだ。

 

  南国の 真紅の花を かみにさし

        少女のきみは はにかみ立てり

 

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